デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれて久しい昨今。中小企業や小規模事業所に
おいても、DX推進は避けて通れない課題となっています。しかし、現場で本当に立ちはだかる“見えない
壁”は、技術や予算ではなく「人」、特に「上司」であることが少なくありません。

DX阻害の正体:その“理解ある風”の上司

「DX?もちろん必要だと思うよ」
「やるべきだとは思っているけど、まずは足元をしっかりね」
「現場がついてこられるか心配だな」

このような発言、聞いたことはありませんか? 口ではDXを支持するそぶりを見せつつ、実際には何も
進まず、気づけば数か月、数年が経過している…。こういった「一見前向きな風を装った、後向きな上司」
がDX推進における最大の障害となっているケースは非常に多く見受けられます。

事例:A社に見る「前向きなふり上司」

ある製造業A社では、若手社員が中心となって生産工程のデジタル化を検討。日報の電子化やIoTを使った
機器管理の提案を行いました。
社長は当初、「いいね、それ!」と賛同。しかし、いざ見積を出す段階になると、
• 「それ、本当に現場で使えるの?」
• 「紙のままでも問題起きてないよね?」
• 「それより売上伸ばすアイデアを考えてよ」

と、次々に後ろ向きなコメントを投げかけ、最終的にはプロジェクトが棚上げにされてしまいました。
これは典型的な「理解ある風上司」によるDX阻害事例です。

こうした上司がDXを阻害する理由
1. 変化への不安(失敗したくない)
• 既存のやり方で長年やってきた安心感を手放せない。
2. 業務内容への理解不足
• デジタル技術の可能性や実装方法に対する知識が浅いため、漠然とした不安を感じている。
3. 部下や若手への警戒心
• 自分の役割や立場が脅かされることへの防衛反応。

処方箋:どう対処すべきか?

  1. 「味方」の仮面を剥がすための言語化

上司の発言に対して曖昧なままにせず、「では具体的に何が懸念ですか?」「現場の誰に確認しますか?」
と問いを立てましょう。言葉の「抽象的な前向きさ」を具体化させることで、ブレーキの正体が見えてきます。

  1. スモールスタートで成果を“可視化”する

いきなり大規模なDXを提案するのではなく、業務改善レベルの小さな施策から始め、目に見える成果を
上司に“体感”させることが有効です。
例:紙の日報をGoogleフォームに変える→集計が楽になる→効果を実感。

  1. 外部の専門家・支援機関を巻き込む

上司が内向きで動けない場合は、外部のDX支援事業者や支援窓口を活用し
“第三者の声”を加えることで、変化への説得力が増します。

  1. 経営層との直通コミュニケーションを確保

中間管理職が阻害要因である場合、経営者層と直接対話する機会を持ちましょう。
上司フィルターを通さず、真意を伝えるルートが必要です。

最後に

DX推進の壁は、必ずしも“敵対者”として立ちはだかるわけではありません。
むしろ、多くは「変化を恐れるがゆえに理解あるふりをする人たち」です。
その“皮”をどう見抜き、剥がし、巻き込むか。

それが、中小企業DXの本当の第一歩です。