はじめに:「結局、現場が動かなければ意味がない」

リスクアセスメントにおいて「体制づくり」「計画立案」まではできても
実際に現場が動いてくれないという壁にぶつかる企業は少なくありません。

特に中小製造業の現場では──

  • 「どうせまた一時的な取り組みでしょ」
  • 「紙ばっかり増えて面倒だ」
  • 「やる意味が分からない」

といった“やらされ感”が根強く残っているケースが多いのが現実です。
だからこそ必要なのは、「やらされ感」から「自分ごと」へ変えるプロセスづくりです。

今回は、従業員の協力を得るための工夫と、小さな成功体験を積み上げていく方法について
現場目線で解説します。

1. 「お願い」ではなく「巻き込む」ために

リスクアセスメントは一人ではできません。現場の観察やヒヤリハットの拾い上げには
従業員の協力が欠かせません。

しかし、「協力してください」とお願いするだけでは、なかなか本音を引き出すことは難しいものです。

■ 協力を得るための3つの視点

ポイント説明
意味を共有するなぜやるのか、どんなメリットがあるのかを丁寧に伝える「自分たちの安全のため」
「事故で休業すると一番困るのは現場」
できることから頼む全てを任せず、小さなタスクからお願いする「気になったことをメモしてもらうだけでもOK」
形だけで終わらせない出てきた意見をきちんと拾い、フィードバックする「前回のヒアリング内容を、今回の改善案に反映しました」

従業員が「自分の声が届いている」「やる意味がある」と実感できるような
双方向のコミュニケーションがカギとなります。

2. 実地観察とヒアリングで「本当のリスク」を拾い上げる

形式的なチェックリストだけでは、現場に潜む“リアルなリスク”は見えてきません。
重要なのは、現場の「気付き」を丁寧に拾い上げることです。

■ 実地観察のすすめ方

  • 実際の作業を「見る」「聴く」「記録する」
  • 作業者の目線で、どこにムリ・ムダ・ムラがあるか観察
  • 「普段通りやってくださいね」と一声かけ、作業を止めない

■ ヒアリングのポイント

よくある質問例より良い質問例
「危ないところありますか?」「最近、ヒヤッとしたことってありました?」
「困ってることありますか?」「この作業で、一番気を使ってるところってどこですか?」

「危ない」と思っていないことが、無意識のリスクになっているケースも多くあります。
普段の感覚や体験をベースに、自然な会話の中から情報を引き出すことが重要です。

3. 小さな成功体験を「みんなで共有」する

現場にとって、最も響くのは「誰かの成功体験」です。

「この前、作業台の段差を直してもらってすごく楽になった」
「あのリスト、みんなで作ったおかげでミスが減った」

…そんな日常の“ちょっとした良かったこと”を可視化・共有する仕組みがあると
他の人の関心や参加意識も自然と高まっていきます。

■ 成功体験を共有する仕組み例

  • 月1回の「改善ネタ共有ミーティング」
  • 「ありがとうメモ」掲示板の設置
  • 成果事例を朝礼・社内報・LINEグループで共有

特に有効なのが、「実名・具体的・感謝の言葉」が入った形式で紹介することです。
たとえば:

「○○さんが教えてくれた“滑り止めマットのズレ”が改善されて、すごく作業しやすくなりました!
ありがとうございます!」

といった共有がされると、協力したことが評価される文化が生まれていきます。

まとめ:「巻き込み」は“感情と行動”の両面から

従業員を巻き込むには、制度や手法だけでなく、感情に寄り添う姿勢が大切です。

・「協力してくれてありがとう」を伝える
・「意味がある」と実感できる仕掛けをつくる
・「やってよかった」と思える場面を積み上げる

その積み重ねが、“やらされ感”を“自分ごと”に変えていく唯一の道です。
リスクアセスメントは、形式的にやるものではなく、「現場に根づく安全文化」を育てるプロセス。

小さな前進を、焦らず、着実に重ねていきましょう。

次回は「教育の仕組み化」について掘り下げます。
中小企業でも無理なくできる教育手法、マンネリ化させない工夫、日々の現場との連携方法などを具体的にご紹介します。