前回の記事では、
中小企業のデジタル化が進まない背景として、「手段の目的化」という思考の罠について触れました。
今回は、その続きとして、ではどうすればこの状態から抜け出せるのか。
一定の方向性と、現実的な方策を整理してみたいと思います。

方向性は「デジタル化」ではなく「業務の整理」

まず大前提として押さえておきたいのは、目指すべきゴールは「デジタル化」そのものではない
という点です。
ゴールはあくまでも、業務がどう変わるのか、何が楽になるのか、何が改善されるのか
、という業務視点にあります。

多くの現場では、業務が複雑化し、属人化し、なぜそうなっているのか誰も説明できない状態が
常態化しています。この状態のままシステムを入れても、混乱がデジタル化されるだけです。
最初にやるべきことは、業務を見える形に整理することです。

課題は「困っていること」から一段深掘りする

研修やヒアリングでよく出てくるのは、「忙しい」「人が足りない」「ミスが多い」といった声です。
これらは確かに問題ですが、まだ表層的です。

  • なぜ忙しいのか、どの業務に時間が取られているのか。
  • なぜミスが起きるのか、どこで属人化しているのか。

この一段深い問いかけをしないまま、「システム化すれば解決」という結論に飛びついてしまうことが
失敗の原因になります。

システム導入は「最後」に検討する

多くの企業では、対応策を考える段階で、いきなり「どのシステムを入れるか」という話になります。
しかし本来の順番は逆です。

業務を整理し、課題を明確にし、それでも人手や運用では限界がある部分に対して
初めてシステムという選択肢が出てきます。
システムは万能な解決策ではなく、業務を支える道具の一つにすぎません。

この順番を守るだけで、「入れたけれど使われない」「現場に合わない」といった失敗は大きく減ります。

小さく始めて、成功体験を積み上げる

中小企業にとって、最初から大規模なDXを目指すのは現実的ではありません。
予算も人材も限られている中で重要なのは、小さく始めて、確実に効果が出る成功体験を積み上げることです。

例えば、紙の帳票を一つ減らす、二重入力を一つなくす、確認作業を一工程省く。
こうした小さな改善でも、現場の負担は確実に減ります。
その積み重ねが、次の改善への理解と協力につながります。

「デジタルが苦手」という前提を疑う

よく聞く「デジタルが苦手だから」という言葉も、一度立ち止まって考える必要があります。
多くの場合、苦手なのはデジタルそのものではなく、目的や全体像が見えないまま使わされることです。

業務改善の目的が明確であれば、ツールは後から覚えれば済む話です。
完璧に理解する必要はありません。分からないことを前提に進める設計こそが、中小企業には求められます。

次回のシリーズテーマ

本シリーズでは、今後以下のようなテーマを順に掘り下げていく予定です。

まずは、業務整理をどのように進めればよいのか。次に、システム導入を検討する際の判断軸や
失敗しにくい進め方。さらに、デジタル人材がいない企業でも回る体制づくりについても触れていきます。

デジタル化を「できない理由探し」で終わらせないために
現場で実行可能な視点を整理していきたいと思います。