~紙とペンとストップウォッチで始める、生産性アップへの近道~

前回は「IE(インダストリアル・エンジニアリング)」とは何か?という基本についてお話ししました。
今回はいよいよ、改善の第一歩である「ムダを見える化する方法」について紹介していきます。

「改善」と聞くと、専門的な知識や高価なツールが必要だと思うかもしれませんが、
実は紙とペンとストップウォッチがあれば、誰でも今日から始められるのがIEのいいところです。

■ ムダを見つけるには、まず「観察」から

改善を始める前に、最も大事なのは「現状を知る」ことです。
たとえば、こんなふうに考えてみてください。

「ムダを減らしたい」と思っても、今どこにどんなムダがあるのかを知らなければ
減らすことはできません。

そこでまず必要なのが、「現場をじっくり観察する」こと。
工場の中をただ歩き回るのではなく、一人の作業者の動きをしっかりと見ることから始めてみましょう。

■ 紙とペンでできる!ムダの発見ステップ

以下は、初心者でもできるムダ発見の基本ステップです。

【1】作業の流れを書き出す(作業の棚卸し)

作業者がどんな動作をしているかを、一つひとつ順番に書き出します。

例)

  • 工具を取りに行く
  • 部品をセットする
  • ボタンを押す
  • 完成品を台車に載せる
  • 検査員を待つ
    …といった具合に、「何をしているか」をざっくり記録します。

【2】動作を分類してみる(IE的視点を加える)

次に、それぞれの作業を「ムダかどうか」「付加価値があるかどうか」で分類してみましょう。

ここでは、「作業の三分類」が役に立ちます。

  • 正味作業(付加価値あり):製品を作るために本当に必要な動き
  • 付随作業(必要だけど付加価値はない):準備、片付け、道具を取るなど
  • ムダ作業(やらなくてもよい動き):探す、待つ、無駄に歩く、手戻りなど

多くの中小製造業では、この「ムダ作業」が意外と多く含まれていることが多いのです。

■ ストップウォッチで簡単時間計測してみよう

次に、ストップウォッチを使って、それぞれの作業にどれだけ時間がかかっているかを計ってみましょう。

たとえば:

  • 「部品セット」:15秒
  • 「機械操作」:10秒
  • 「完成品の移動」:30秒
  • 「次の部品を探す」:45秒 ← ここがムダ!

このように、時間を測ることで、どこで時間がかかっているか=ムダがあるかが見えてきます。

■ ECRSで考える!改善アイデアのヒント

IEでよく使われる「ECRS(イーシーアールエス)」の視点も、改善アイデアを出すのに役立ちます。

視点意味考えること
E:Eliminate(排除)やめられないか?本当に必要な作業か?ムダじゃないか?
C:Combine(統合)一緒にできないか?複数の作業を同時にできないか?
R:Rearrange(順序変更)順番を変えられないか?やりやすい順番に変えられないか?
S:Simplify(簡素化)簡単にできないか?道具や手順をもっとシンプルにできないか?

この4つの視点で、先ほどのムダ作業や時間のかかっている部分を見直すと
改善のアイデアがどんどん出てきます。

■ 難しく考えず「見て」「書いて」「測る」だけでOK!

「ムダの可視化」と聞くと難しそうに思えるかもしれませんが、実際はとてもシンプルです。

  1. 作業をじっくり見て
  2. 紙に書き出して
  3. ストップウォッチで時間を測る

これだけでも、驚くほど多くの気づきが得られます。

■ 最後に:ムダを責めるのではなく、仕組みを見直す

ひとつだけ大切なことがあります。
ムダが見つかっても、それは作業者が悪いわけではありません。

たいていの場合、ムダは「仕組み」や「やり方」が原因です。
だからこそ、「どうすればもっとやりやすくなるか?」という視点で
現場と一緒に改善を考えることが大切です。


次回は、こうして見つけたムダや改善活動が、どれだけ効果を生んでいるのか?
「改善の成果を測る指標」について解説していきます。お楽しみに!