■ 「黒船」のようにやってきたAI

この感覚、どこかで似たようなことがありました。
そう、江戸の人々が黒船を目の当たりにしたとき。

突然、遠い世界から未知の存在が現れ、自分たちの価値観を揺さぶった。
当時の人たちはきっと、驚きと不安、そして少しの希望を感じたはずです。

AIも、まさにそれに近いのではないでしょうか。
便利だと聞いてはいる。
でも、本当に自分の仕事や生活にどう関わるのか、まだ掴みきれない。
そんな「時代の変わり目」の中に、私たちは立っています。

■ 「答えのある世界」で生きてきた私たち

特に社会人として長く働いてきた方ほど、AIに戸惑いを覚えるのではないでしょうか。
なぜなら、これまでの仕事の多くは「答えのある世界」で成り立っていたからです。

  • どうすれば効率が上がるか
  • どんな手順ならミスが減るか
  • どのツールを使えば合理的か

そうした“正解の見える改善”を繰り返し積み重ねてきた世代ほど
AIのように「正解が見えない存在」には困惑します。
AIに対してもつい、こう聞きたくなる。

「AIって、結局何ができるの?」
「どう使えばいいの?」

でも実は、この“質問の仕方”そのものが、AI時代の難しさを象徴しているのかもしれません。

■ AIの本質は「答えを出すこと」ではなく「問いを拡張すること」

AIのすごさは、計算の速さや文章生成の精度だけではありません。
本質は、私たちの思考そのものを広げてくれることにあります。

いまの生成AI(LLM)は、単に「答えを出す機械」ではなく、
“問いを深めるきっかけ”を与えてくれる存在。

つまり、AIを使いこなすというより、AIと一緒に考えることが大切なんです。

たとえば、AIにアイデアを相談してみる。
自分では思いつかない角度の答えが返ってくる。
その瞬間、「あ、そういう考え方もあるんだ」と気づく。

そこにあるのは、合理化でも自動化でもなく、新しい発想の種です。

■ 「問いを創る力」こそがAI時代のキースキル

AIがどれだけ賢くなっても、「何を聞くか」は人間次第です。
つまり、AI時代に問われているのは、“正しい答えを出す力”ではなく、“良い問いを立てる力”

それは、これまでの仕事の進め方とはまったく逆の発想です。
でも、ここにこそAI時代のチャンスがあります。

「AIにどう使われるか」ではなく、「AIをどう共創者にするか」
その意識の転換が、これからの社会で大きな差を生むように感じます。

■ この連載で一緒に考えたいこと

この5回シリーズでは、AIを“理解する”ためではなく、AIとどう共に生きるかをテーマに
少しずつ整理していきたいと思います。
難しい専門用語は使わず、現場で感じる違和感や希望をベースにお話しします。

🔹【連載アジェンダ】

第1回 AIは「黒船」なのか 変革の衝撃と戸惑いの正体
AIが突きつける「理解できないスピード」と、私たちの“思考の習慣”とのギャップを探る。

第2回 答えを求める思考からの脱却 ― 問いを創る力
AI時代に求められるのは、“考える力”よりも“問う力”。AIとの対話の質を上げる方法を考える。

第3回 AIツール乱立時代 ― 何を選び、どう使うべきか
ChatGPT、Gemini、Claude…ツール比較ではなく、“どう共に使うか”という発想の転換を。

第4回 AIが変える「仕事」と「学び」 ― 思考の民主化の始まり
AIによって“誰もが考える人”になれる時代。教育・職場の未来を一緒に想像してみたい。

第5回 AIと人間の未来地図 共創社会へのプロローグ
AIと人間が共に成長する社会。その中で「人間らしさ」はどこに残るのかを考える。

■ AI時代の“開国”をどう迎えるか

AIの世界は、まだ始まったばかりです。
でも確実に、社会の仕組みや働き方、考え方を根底から変えようとしています。

かつて日本が「黒船」をきっかけに開国したように、
今の私たちは、AIという知の黒船とどう向き合うかを問われているのだと思います。

答えを探すより、まずは一緒に考えてみる。
そこからしか、AI時代の“希望”は見えてこないのかもしれません。

📖 次回予告
第1回:「AIは“黒船”なのか 。 変革の衝撃と戸惑いの正体」
AIがもたらす“わからなさ”の正体を、少し丁寧に紐解いてみます。