
近年、半導体業界では「ファンドリービジネス」が再び脚光を浴びています。
特に台湾のTSMCが熊本進出を果たしたニュースは、業界に関わった経験を持つ人間としても感慨深いものがあります。
実は私自身、前職で半導体業界の末席に身を置き、ファンドリー関連のプロジェクトにも携わっていた時期がありました。
当時は業界全体が活況でありながらも、「次のビジネスの芽」を模索していた時代。
その中で浮上していたのが、まさにこの「ファンドリービジネス」でした。
■ ファンドリービジネスとは何か
「ファンドリー(Foundry)」とは、簡単に言えば“半導体製造の請負業”です。
半導体業界は大きく「設計」と「製造」に分かれます。
かつては設計から製造まで一貫して自社で行う「垂直統合モデル(IDM)」が主流でしたが、製造コストや
開発スピードの観点から、設計に特化した企業(ファブレス)と、製造に特化した企業(ファンドリー)に
役割が分かれていきました。
この分業モデルが世界的に確立したことで、半導体業界の競争構造は一変しました。
■ 日本企業が模索した“ファンドリー構想”
私が在籍していた当時、日本企業でもファンドリービジネスへの関心は高まりつつありました。
大きく二つの方向性がありました。
1. 自社工場の一部をファンドリー化し、他社設計の製品を受託生産するモデル
2. 自社開発の半導体を海外ファンドリー(例:TSMCなど)へ委託生産するモデル
後者の動きの中に、確かにTSMCの名前がありました。
しかし結果として、多くの国内プロジェクトは立ち消えに…。
理由はいくつかあります。
■ 国内で頓挫した理由と「越えられない壁」
当時の日本企業には、いくつかの越えられない壁がありました。
• 企業プライドと秘匿性の問題
他社に自社設計データを渡すことへの抵抗感が非常に強く、
「技術が筒抜けになるのでは」という懸念がつきまとっていました。
• 設備投資の壁
顧客が求める最新製造ラインを維持するには莫大な資金が必要です。
バブル崩壊後の日本企業には、その投資体力が乏しくなっていた。
• 自社技術への過信
「製造技術ではまだ海外には負けない」
という意識が根強く、結果的にグローバルの分業モデルに乗り遅れたのです。
こうして、日本発のファンドリービジネス構想は形にならず、
気がつけば海外勢、特にTSMCがその主役となっていきました。
■ 現在の主流「分業モデル」と日本の立ち位置
今や世界の半導体は、設計(ファブレス)と製造(ファンドリー)の分業が完全に定着。
米国は設計で強みを持ち、台湾・韓国が製造を担う。
この「分業による効率化」が、イノベーションのスピードを決定づけています。
一方の日本は、素材・装置・製造技術では依然として世界トップクラスですが、
肝心の“量産の現場”は海外勢の後塵を拝しています。
つまり、産業構造の中心が「設計×製造連携」から外れてしまったのです。
■ 日本半導体が再び輝くには
では、日本はこのまま分業構造の部品供給国で終わるのでしょうか。
私はそうは思いません。
むしろ今こそ、日本が「協調型半導体モデル」を提案できるチャンスだと感じています。
• TSMC熊本工場をきっかけに、製造現場の知見を国内に取り戻す
• AIや自動車分野など、設計と用途が一体化した「応用特化型半導体」に注力する
• 国家プロジェクトを超えて、産官学連携で「分業の中の強み」を明確化する
つまり、全部を自前でやるのではなく、
自国の強みを軸に、世界と共に創る方向です。
■ おわりに
私がかつて関わったファンドリープロジェクトは、残念ながら日の目を見ませんでした。
しかし、あのとき議論していた「分業による新しい価値創造」の芽が、
30年近い時を経て、今まさに現実となっています。
半導体はもはや単なる電子部品ではなく、国家の産業基盤そのもの。
そして、その再生のカギを握るのは「プライドではなく、連携の発想」かもしれません。
