「リスクアセスメント」と聞くと、「うちには難しすぎる」「人も時間も足りない」といった声を
よく耳にします。特に中小企業の現場では、実施そのものが後回しにされがちです。

しかし実際には、「できる範囲から」「現場発で」始めたことで、大きな効果につながった事例が
少しずつ増えています。

今回は、私たちが実際に関わった中小企業での等身大の成功例を3つご紹介しながら、それぞれの
工夫やポイントを解説します。

事例1:5人規模の工場で起きた意識改革

「誰かが守ってくれる」から「自分たちで守る」へ

従業員5人という、ごく小規模な金属加工工場での事例です。
最初は、「リスクアセスメント?うちはそんな大げさなことは必要ないよ」といった反応でした。

しかし、作業場での軽微なヒヤリハットが続いたことをきっかけに、ベテラン作業者のひとりが
「これ以上ケガ人を出したくない」と声を上げました。

取り組んだことは極めてシンプルです。

  • 工程ごとのリスクを「手書きのチェックシート」で見える化
  • 毎週10分の「振り返りミーティング」を実施
  • 改善ポイントは壁に貼り出し、全員が意識共有

この「見える化」と「声に出す文化」が、少しずつ現場の空気を変えていきました。
今では新しく入った人も、「これって危ないかも」と自発的に声を上げられる環境が育っています。

事例2:親会社の要請を逆手にとった改善

「やらされ仕事」から「現場の武器」へ

こちらは、親会社から「リスクアセスメントを義務化する」と通達された部品製造会社(社員30名程度)
の事例です。

はじめは「面倒くさい」「本社が勝手に決めた」と現場は抵抗感いっぱい。
そこで担当者が考えたのが、「この機会に普段の困りごとも一緒に洗い出してしまおう」という逆転の
発想でした。

具体的には、

  • 本社提出用とは別に、現場用の簡易リスクマップを作成
  • 危険ポイントだけでなく、「よく手間取る作業」「作業効率が落ちる理由」なども記入
  • 月1回の改善会議で、リスク=ムダや不便の種として話し合い

これにより、リスクアセスメントが単なる“報告用資料”から、現場の改善ツールとして定着。
今では「前より作業がスムーズになった」という声も多く、社員の巻き込みにも成功しています。

事例3:新人教育とリスクアセスメントを組み合わせた成功例

「育成」と「安全管理」を同時に実現

こちらは、年に数名の新入社員を受け入れる中規模工場での事例。
従来はOJT頼みだった新人教育を見直すタイミングで、リスクアセスメントを組み込むことに。

取り組み内容は次の通りです。

  • 新人研修の一環として、「危険予知(KY)トレーニング」を導入
  • 作業ごとに、「どこが危険か」「どうすれば防げるか」をペアで話し合い
  • 実際の作業前には、「この作業で気をつけるポイント」を書き出して共有

これにより、新人の安全意識が高まるだけでなく、教える側のベテランも再確認の機会となり
現場全体の安全文化が向上しました。

中小企業こそ「等身大」で始めよう

これらの事例に共通しているのは、「完璧を目指さず、できるところから始める」という姿勢です。

  • 手書きのチェックシートでも良い
  • 小さな声かけからでも効果はある
  • 上からの命令も、現場の視点で“使いこなせば”プラスになる

「うちは特別なことはできない」と思っていた企業こそ、小さな一歩が大きな変化につながっています。