
中小製造業における「成果主義」再考
― 評価の公平さは、本当に“成果”だけで測れるのか ―
1.成果主義とは何か
成果主義とは、社員一人ひとりの「成果(実績)」をもとに給与・賞与・昇進などを決定する
仕組みを指します。
年功序列が根強い日本企業においても、バブル崩壊以降の効率化やグローバル化の流れの中で
成果主義を取り入れる企業は増えてきました。
その目的は明快です。
「努力と成果が正当に報われる仕組みをつくり、社員のやる気と生産性を高める」
しかし実際の運用では、「理想」と「現実」のギャップが大きく、特に中小製造業の現場では
その難しさが露呈します。
2.成果主義のメリットとデメリット
■ メリット
1. 成果を出す人が報われる(公平性の見える化)
努力や成果が数値化されやすく、「頑張った分だけ報われる」構造ができる。
2. 目標意識の向上
各自が目標を意識して業務にあたるため、モチベーション維持や生産性向上が期待できる。
3. 人件費の変動制(経営側のメリット)
固定的な年功型給与よりも、業績に応じた柔軟な報酬体系を設計できる。
■ デメリット
1. 短期成果偏重になりやすい
長期的な技術蓄積や品質改善より、「今期の数字」に焦点が当たりやすくなる。
2. チームワークの崩壊リスク
個人評価が強調されすぎると、「自分だけ成果を出せばいい」という風潮が生まれる。
3. 評価の不透明さ・納得感の欠如
評価軸が曖昧だと、「なぜ自分が評価されなかったのか」が見えず、逆に不満を生む。
3.中小製造業における「成果主義」の難しさ
大企業では、評価指標が明確で、職種ごとにKPIが設定されるケースも多いですが、
中小製造業では「職域の広さ」「定量化の難しさ」「上司の主観」が大きく影響します。
たとえば製造現場では、
• Aさんは作業効率が高い
• Bさんは品質トラブルを防ぐフォロー役
• Cさんは新人教育で貢献
といった“見えにくい貢献”が多く存在します。
こうした部分を数値で評価するのは難しく、結局は「見える成果」だけが評価される傾向になります。
さらに「頑張っても評価が追いつかない」状況が続くと、
モチベーションの低下や人材流出につながる危険もあります。
4.筆者自身の経験から
私自身、前職で成果主義を導入していた組織に在籍していました。
毎年目標を立て、結果を出すために努力を重ねた結果、初年度・翌年と続けて「+査定」を受けることが
できました。
「よし、次の年も!」とさらに奮起して挑んだ三年目。
成果には手応えを感じていましたが、最終評価では“通常昇給”。
理由は、「他の人も頑張ったから」。
給与がすべてではありませんが「成果主義とは何か」を考えさせられる瞬間でした。
努力が相対評価に埋もれる仕組みであれば、それはもう成果主義とは言えないのかもしれません。
このとき初めて「評価制度が人を動かす」だけでなく「評価制度が人の心を折る」こともあるのだと
実感しました。
5.成果主義導入における本質的課題
中小製造業にとっての課題は、「制度設計」よりも「現場理解と対話」にあります。
成果主義を取り入れるのであれば、単に数値目標を課すのではなく、
• チームで成果を上げる仕組み
• プロセスを評価する指標
• フィードバックの透明性
これらを併せて整える必要があります。
つまり、「人を評価する制度」ではなく、「人を育てる制度」としての成果主義が理想です。
6.結論:成果主義に「正解」はない
成果主義は、万能の仕組みではありません。
それを導入する「目的」と「文化」によって、良くも悪くも作用します。
特に中小製造業においては、
• 技術継承やチーム連携を重視する文化
• 数字だけで測れない熟練技能
• “人と人の信頼関係”で支えられる現場
こうした要素を無視した「成果主義」は、組織を強くするどころか分断を生むことになりかねません。
結論としては
成果主義を導入することが目的ではなく、
“成果を生み出す組織文化”をどう育てるかが本質。
これをどう形にするか。
それこそが、これからの中小製造業にとっての“次の課題”なのではないでしょうか。
