
■ はじめに
前回は、日本社会が直面する労働力不足と、その補完的役割を果たしてきた
「技能実習制度」の現実と課題を見てきました。
その中で政府は、制度の欠陥を補うために新たな外国人材受け入れ制度として
「特定技能」を創設し、より現実的な“働くための制度”へと舵を切り始めています。
今回は、今後日本で外国人が働くうえで中心的な位置づけになる
「特定技能」と「技術・人文知識・国際業務(通称:技人国)」のビザ制度を詳しく見ていきましょう。
■ 日本で働くためのビザ(在留資格)とは
日本において外国人が合法的に働くには「在留資格(ビザ)」が必要です。
その中でも就労を目的としたビザは大きく次の2系統に分けられます。
| 区分 | 主なビザ | 対象となる人材 | 例 |
|---|---|---|---|
| 現場技能系 | 特定技能 | 特定産業分野で一定の技能を持つ人材 | 介護、外食、建設、農業、製造など |
| 高度・専門職系 | 技術・人文知識・国際業務(技人国)など | 大卒・専門スキル・語学を持つ人材 | ITエンジニア、通訳、デザイナー、経理など |
それぞれ目的や条件が異なり
求められるスキルレベル・在留期間・受け入れ条件も大きく変わります。
■ 「特定技能」制度とは
1. 制度の背景
2019年に導入された制度で、人手不足が深刻な16分野で外国人が即戦力として
働けるよう設けられました。
政府としては「技能実習制度の実態を是正し、より公正な労働環境で外国人が働ける仕組み」を
目指しています。
2. 特定技能には2種類ある
| 種別 | 主な特徴 | 在留期間 | 家族帯同 | 永住の可能性 |
|---|---|---|---|---|
| 特定技能1号 | 一定の技能と日本語力(N4相当)で現場就労可 | 最長5年 | 不可 | なし |
| 特定技能2号 | より熟練した技能を持つ者が対象 | 更新可能・実質無期限 | 可 | 可 |
たとえば「外食」「介護」「建設」「自動車整備」「製造業」などで多くの外国人が就労しています。
技能実習を終えた人が試験を経て特定技能へ移行するケースも増えています。
3. メリット・課題
メリット
• 即戦力人材として企業が直接雇用できる
• 技能実習よりも労働者の権利が明確
• 長期的な雇用・キャリア形成が可能
課題
• 試験制度や日本語要件のハードル
• 受け入れ企業のフォロー体制(生活・教育面)不足
• 地域・業種間での人材偏在
■ 「技術・人文知識・国際業務(技人国)」ビザとは
1. 概要
このビザは、いわば*専門職系ホワイトカラー”向けの在留資格です。
大学・専門学校で学んだ専門知識を活かして、日本企業で働くことができます。
例としては
- システムエンジニア
- 通訳・翻訳・貿易業務
- 経理・マーケティング
- デザイン・商品企画
2. 主な要件
- 原則として大卒以上(または実務経験10年以上)
- 雇用契約があり、業務内容が学歴・経歴と関連していること
- 給与・待遇が日本人と同等以上
3. 在留期間
1年、3年、5年の更新制で、長期的な就労や永住申請への道も開けます。
4. 特徴
- 比較的転職や企業変更が自由
- 国際ビジネスやITなどで外国人が活躍中
- 語学力・専門スキルが重視される
■ 特定技能と技人国の違い(比較表)
| 項目 | 特定技能 | 技人国 |
|---|---|---|
| 対象分野 | 現場技能系(製造・介護など) | 専門職・事務・技術職 |
| 学歴要件 | 不問(技能・試験合格が条件) | 大卒または実務経験 |
| 雇用形態 | 直接雇用が原則 | 企業雇用(派遣も一部可) |
| 在留期間 | 最長5年(2号は更新可) | 更新制(最大5年・永住可) |
| 家族帯同 | 1号不可・2号可 | 可能 |
| 永住・定住への道 | 2号で可能 | あり |
| 主な出身国 | 東南アジア中心 | グローバル多国籍 |
■ まとめ
- 日本の就労ビザは「技能実習」から「特定技能」「技人国」へと発展している
- 特定技能は“現場系即戦力”、技人国は“専門職系”の位置づけ
- 外国人がステップアップできる道が整いつつあるが、企業側の理解・支援が不可欠
■ 次回予告
最終回では「外国人と日本人が共に働く社会」をテーマに、島国・単一民族国家としての日本が
どのように多様な人材と共生していくべきかを、外国人・日本人双方の視点から考察します。
